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金太郎を鍛えた山!信州の金時山『大姥山』は鎖場連続! May 16, 2019 【金太郎ゆかりの山①】

みなさんよくご存じの金太郎伝説。

金太郎という名は坂田金時の幼名であり、平安時代前期の源頼光(弟の頼信は河内源氏の祖であり、源頼朝に繋がる)に仕える四天王の一人でした。また、金時豆は金太郎の赤い肌に因んで名付けられたそうですね。

さて、幼いころから怪力で知られた金太郎が、動物たちと相撲の稽古をしていたとされる山と言えば、箱根の「金時山」が良く知られていますね。

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足柄峠足柄山聖天堂のクマに跨りマサカリを担いだ金太郎。大涌谷がまた活発化したようで、噴火警戒レベル2に引き上げられたようですね……(えっ?箱根?訳はのちほど

 

実は、私の住む信州にも金太郎伝説が伝わる山がいくつかあります。

先週はそのうちの一つ。旧八坂村(長野県大町市)にある「大姥山」に、金太郎が育った山がどれくらい険しいか調べるために(笑)登ってきました!(すごかった!)

先日の山姥伝説のこる虫倉山に続き、昔話に出てきそうな里山です!

 

Contents

 

 大姥山登山ガイド

「大姥山」は、比較的新しい火山からなる箱根の「金時山」と異なり、堆積岩(1000万年前以降にこの地にあった海に堆積した地層)からなる山です。その堆積岩が作る山容は標高1,000mほどにも拘らず、鎖の連続する痩せ尾根で険しく、金太郎がここで修業していたことも納得できるほどです。

登山道は鎖場が大半を占めますが、鎖に頼りすぎることなく、細心の注意を払って登ってください。

※以下に続く大姥山の記述は筆者個人の感想です。また季節や気象条件によって、登山道周辺の環境は大きく変動します。登山をする際は、ご自分でもよくお調べになり、十分な装備を整えて楽しんでください!

 

大姥山(おおうばやま) 難易度:★★★☆☆*1 ※急登・連続した鎖場あり!

【所在地】〒381-2424 長野県長野市信州新町左右

【アクセス】安曇野ICから40分(30km)または、長野ICからは45分(38km)ほど。

【山頂標高】1,003m(二等三角点は1,006.4m)

【登山口標高】556m

【コース距離】7.8km (登り:金太郎の散歩道、下り:大姥の散歩道)

【参考コース時間】計4時間30分(休憩含む)

【展望良さ】★★★☆☆ (主に南方面の展望良好)

【山域地質】高府向斜のほぼ軸部に位置する。岩石は新第三紀の小川層の論地部層。砂岩、砂質泥岩、礫岩からなり岩相変化が著しい(1/5万地質図幅「大町」)。

 

  

 

登山ルートのハイライト

「大姥山」のハイライト・シーンは、以下の3つです。

1.大姥神社本宮から続く鎖場の緊張感

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2.奥社の「大穴」の堆積岩が作る造形美

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3.頂上からの北アルプスの眺め(当日雲がかかってましたが…) 

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「登りやすい・楽しめる山」かというと、以下の注意事項や廃屋が多い事を考えると、万人向けの山ではないかもしれません。しかし、北アルプスなどの本格的な山に登る練習として、また地元に伝わる伝承に触れながら登る里山として見るならば、おすすめの山と言えるでしょう。

 

注意事項ですが、鎖場では決して鎖に頼り切らず(一部支点が緩い箇所もありました)、ご自分の手と足をメインに三点支持を心掛け、鎖は補助としてお使いすることをお勧めします(この山に限りませんね)。

また下山ルートに選んだ「大姥山の散歩道」は所々標識が無いまたは分かりづらいので、十分注意して通行してください。

 

登山ルート詳細

登山口から頂上まで

登山口までは、国道19号線沿い大町市八坂の赤土停留所付近のカーブから県道469号線に入ります。金太郎の壁画が目印です。

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県道469号線(右)から国道19号線(奥)。壁画は松本市側から見えます。

 

登山道はいくつかありますが、今回は大姥の滝に向かう林道(県道469号から分岐) の途中にある登山口から登りました。

この登山道から大姥神社の参道まで上がり、参道から金太郎の散歩道を経て大姥山頂上を目指します。

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県道分岐からすぐ右手にある廃屋の手前から、登山道が始まります。

 

結果的にこの登山口は失敗でした…… 入り口から進み100m程で道が無くなりました(汗)。素直に参道を上がるのが良さそうです。参道は車でも上がることができ、数台の駐車スペースもあります。

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写真左下の踏み後が上がってきた道。標識は外されていますね……地形図にはしっかりと出ているのですが…… 舗装道路は参道。

 

参道を上がると程なくして駐車スペースのあるトイレがあります。その先の鳥居をくぐると大姥神社本宮が見えてきます。神社建物奥、向かって左に立っている金太郎の看板から登山道(金太郎の散歩道)が始まります。

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登山道はすぐに鎖の連続となります。垂直に切り立った急斜面ではありませんが、砂岩主体の岩をよじ登ることになります。鎖は新しいですが、頼りすぎないように。

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途中、二人目の金太郎が睨んでます(笑)

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 そして、鎖……

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途中のベンチで一息つき……

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また鎖……(汗)

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何本の鎖があったか忘れた頃に3人目の金太郎が現れ、登山道が分岐します。右が山頂へ。左は金太郎と大姥様が住んでいたとされる「大穴」への道(行き止まり)となります。

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ここまで来たら、金太郎も褒めてくれています(のように見える、笑) 

 

大穴方面に向かうと、途中1ヶ所に鎖がありますが、落ち葉の厚く積もったトラバースする道を進みます。5‐10分ほどで大穴にたどり着きます。大穴には大姥神社奥社があります。

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堆積岩に穿たれたおっきな穴……なぜここに…? 地面は堆積岩からこぼれてきた砂で砂浜のように……山上の砂浜~

上を見上げると、ハチの巣のような穴が無数に。この穴は「タフォニ」といい、成因に関してはまだまだ決着が付いていないようです。

ウィキペディアに挙げられていた文献をざっと読んでみると、塩類による説明が優勢のようですが、いづれにしろ、岩石の表面の一部(結晶や礫など)が剥がれ落ち、物理的・化学的な風化が進み空隙が拡大したもののようですね……

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堆積岩って不思議な模様をつくるなぁ…… 

 

表面の様子を観察すると、堆積学の授業に出てきそうな構造が! 

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左の割れ目に沿って大穴が出来たのかな? おっ!右の礫層が下の砂の層を不整合に覆って…… 浅海化したのかな?

 

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おぉ、クロスラミナが立体的にみえる…!なつかしい(笑) 

 

大穴の堆積構造の観察に満足して、先ほどの金太郎の所まで戻って登山再開。鎖は続くよどこまでも!というくらい(汗)、痩せ尾根&鎖場が連続します。

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多くの鎖はしっかりと固定されていましたが、中には緩いものがあったので、飽くまでも鎖は補助! 

 

もう勘弁して!と言いそうになるころに頂上到着です!

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あら、電波塔が……もしや林道が…? 

 

頂上からの展望は、北は樹林帯で遮られていました。しかし南方面の展望は良好で、北アルプス南部、筑摩山地の山々が見えました!

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北アルプスは雲で覆われ(涙)。右端の里山二つは南鷹狩山と鷹狩山。

 

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雲の狭間から、北アルプス烏帽子岳が !(真ん中のぽこっと突き出た部分)

 

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聖山とたらら山(左)、四阿屋山、美ヶ原方面と京ヶ倉・大城(右端、やっぱり似たような山が左右に)

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 長野市信州新町方面。左奥の三角形のピークは北信五岳の飯縄山

 

頂上から登山口まで

風景を楽しんだ後、「大姥の道」を進み、登山口まで下山します。

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やっぱり林道あった(笑) 

 

分岐の道標がありますが、林道を進んでください。右の写真に来たら、左の山道を登ってください。そのまま林道を下りてしまうと、山の向こうに着いてしまいます。

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私は標識が指し示す斜面を上がりましたが、昔の朽ち果てたアスレチック・コースでした(平均台と書かれた看板がありました)。

 

山道を数分上がると分岐に出ます。「布川峠」方面を目指します。

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三角点も行きましたが、木立に囲まれ見通しが悪かったです。 

 

分岐点を振り返ると、上に続く道が三角点へ、下の道が布川峠です。

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布川峠へは途中崩落部分があるので、100m程の距離の巻き道を通ります。

この大木まではややトラバース気味の登山道。これ以降、稜線を下ります。

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大木の根元には古ぼけた石碑が…… 

 

標識の無い分岐(涙) ええい!と下の道を選ぶと……

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標識は……

 

行きついた先に看板があり、来た道は通行止めでした。全然通れたけど!

ここから「山姥の滝」方面へ、斜面を下ります。この区間から登山口まで、廃屋が点々とみられ、独特な雰囲気があります……(ちょっと不気味です

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この標識の周りには石仏があります。


廃屋が2軒あるところまで下りてきたら、林道になります。

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写真手前にもう1軒あります。 生活感があって人が住んでいるようでした……

 

通行止めの先を進みます……

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車が進入禁止ということなのでしょうね。

 

途中にスギ林が開けたところから、先ほど登った尾根(金太郎の散歩道)と大姥山が見えました。 

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意外となだらか?

 

しばらく進むと舗装された林道に合流し、やがて登山口に到着です。

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おつかれさまです!

 

おわりに:下山後、衝動的に…… 

鎖場を登っている最中に、

「そういえば、箱根の金時山、中学の時に登ったような登ってないような……」

「どっちだっけ?」

下山後、生坂村の「やまなみ荘」に向かっている最中に、

「覚えてないから、登りに行こう!」

お風呂で汗を流した後、長野の山奥から国道19号と20号を辿り、一路箱根を目指すのでした……

 

つづく……(笑)

 

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参考文献・ウェブサイト

  • 山域の地質図:加藤碩一・佐藤岱生・三村弘二・滝沢文教(1989)大町地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅), 地質調査所, 111p. (リンク産総研地質調査総合センター)
  • タフォニの成因まとめ(英文):Paradise T.R. (2013) Tafoni and Other Rock Basins. In: John F. Shroder (ed.) Treatise on Geomorphology, Volume 4, pp. 111-126. San Diego: Academic Press. (link, ResearchGate)

*1:★1ピクニックレベル、★3丹沢、★5穂高連峰 ※筆者主観。★1でも油断禁物!