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ちょっとスリルな『馬の背』から新緑萌える【京ヶ倉・大城】:双子山脈の謎を追う! Apr 28, 2019

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京ヶ倉頂上から南西方向の北アルプス。眼下を蛇行する犀川は、北アルプス中央アルプス北部の水が集まり、千曲川に合流したのち信濃川となり日本海にそそぐ。

 

北アルプス槍ヶ岳を水源とし南北に分かれ流れる二つの川、梓川高瀬川。やがて松本盆地の中程で出会い一つとなり、長野盆地に流れ下っていきます。この北アルプスの水を集めた「犀川」は、その途中の山間の里「生坂(いくさか)村」で大きく蛇行します。

この蛇行した犀川に抱かれる生坂村には、里を見下ろす険しい「岩山」があります。

 

信州に移り住んでから、時々気になっていたけど名前も知らなかった「岩山」。特徴的な登山道があることを最近知り、この新緑で萌える岩山『京ヶ倉・大城(きょうがくら・おおじょう)』にGW初めに登ってきました。

標高1,000mに満たない山(京ヶ倉 990m、大城 980m)でしたが、岩場の多いルートはお手軽に高度感を楽しむことができ、稜線上からの眺めも素晴らしいものでした!

ちょっとしたスリルを味わいながら稜線上を歩いていると、東側に同じような顔つきの稜線がまた別に連なっていました。帰宅して調べてみると、この二つの稜線は地質的な繋がりがあり、双子関係にある山脈でした。

 

 

京ヶ倉・大城(きょうがくら・おおじょう)登山

中央道安曇野ICから国道19号にのり40分ほど車を走らせると、国道脇の犀川下流の生坂ダムによって水で満たされていきます。

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水鳥が遊ぶ川面の反対側に、ところどころに岩壁の見える山が見えてきます。この岩山が「京ヶ倉・大城」です(写真は京ヶ倉のみ)。

 

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標高こそ低いものの「京ヶ倉(右)・大城(左)」は周囲の里山と違い、斜面や稜線の至る所に岩が剥きだした荒々しい表情を見せます。この険しい岩山は、以下のように戦国時代には山城として使われていたようです。

この山の謂れは、戦国時代に生坂谷を治めていた丸山氏(仁科一族)が山上に城を築き、 甲斐の武田信玄との戦いの備えとし、武田滅亡後には府中(松本)の小笠原氏に攻められた古戦場でもあり、京ヶ倉-大城-眠り峠の登山道は小笠原氏が麻績城を攻めた時に使用した重要な戦略道路でもありました。

引用元:大城・京ケ倉生坂村観光情報

 

登山口までの車道と駐車場

登山口を示す標識に従って村の生活道路を車で上がり、動物除けのゲートを抜けて林道を進むと、数台の車が止まれるスペースがあります。ここが登山口になります。

登山当日はGWともあって、たくさんの登山客の車が林道の脇にまで停まっていました。ちょっと遅めの到着だったので、一見駐車スペースが見当たりませんでした。しかし幸いなことに、生坂村のボランティアの方達が車の誘導や登山登録をなさっており、無事に停めることができました(写真を撮るのを失念してしまいました……)。

 

登山ルートと眺望

【コース】京ヶ倉登山口(0950)ーおおこば見晴台(1020)ー京ヶ倉(1100)ー大城(1140)ー物見岩(1200)ー三角点(1205)ーはぎの尾峠(1215)ー眠り峠口(1230)ー眠り峠登山口(1250)ー国道19号(1330)
【歩行距離】7.1㎞
【所要時間】3h40m
【最低標高】505m(下生坂バス停)
【最高標高】990m(京ヶ倉)

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当初は大城までピストンする予定でした。しかし、この日に限り、縦走者の為に村のバスを無料で出してくれるということで、お言葉に甘えて縦走することに決めました。生坂村に感謝です!なお、通常時に縦走する方は、登山口と下山口が5㎞程離れていますのでご注意ください。

【縦走ルート】は、上記にあるように京ヶ倉登り口(上生坂)から上がり、京ヶ倉・大城を経て、眠り峠手前の登山道を下り眠り峠登山口(下生坂)まで7㎞程の道のりを4時間弱でした。

【難易度】については、体力的には多くの方には問題ないレベルと思いますが、技術的にはほんの少し高いと感じました。ですが、飽くまで里山のレベルとしてですので、初心者の方も経験者と一緒であれば登れる山だと思います。

これから本格的に日本アルプスを登る方にとって良い練習の山の一つになると思います。私も鈍っていた高度感を慣らすのにちょうどよかったです(笑)。

 

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登山口で登山受付をして、しばらくは緩やかな樹林帯を進みます。

 

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京ヶ倉までの登りの途中、「おおこば見晴台」から常念岳を中心とした北アルプスの眺めは素晴らしいですが、その下でダイナミックにカーブする犀川に目を奪われます。

さらに高度を稼ぐと、快適な樹林帯から徐々に岩が多くなり険しくなります。

 

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1時間ほど登ると「京ヶ倉・大城」の稜線に到達します。10分ほど歩くと、本ルートのハイライト「馬の背」です!

 

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「馬の背」の眺めは素晴らしいのですが、両側が落ちており、慎重に…… 心配な方は迂回ルートがありますのでご安心を。私も久し振りの高度感に緊張しながら(笑)渡り終え、急な登りを上がると…… 

 

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「京ヶ倉」の山頂に!

頂上は数パーティが休憩できるほどの広さでした。写真を撮っていると、すでに出来上がっている陽気なパーティに絡まれてしまったので、ご飯も食べずに早々に退散(笑)。

 

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次のピーク「大城」までも気が抜けませんが、素晴らしい眺めが広がります。

 

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「大城」で休もうかなと思い頂上に着くと、別パーティが…… ご飯を食べられそうなスペースがなかったので先を急ぎました(笑)。松林に頂上は覆われ眺めはいま一つでした。

 

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大城からの稜線上は、岩場も無くなり歩きやすくなっていきます。松林の中を歩いていると「物見岩」に至ります。

 

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物見岩から数分で三角点に到達。この三角点は三等になります。東側に一等三角点の聖山が見えます。

 

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10分ほど歩くと「はぎの尾峠」。さらに10分ほどで東屋に(ここにも人が……)。

 

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東屋から少し歩くとすぐに眠り峠口に、下り道を選ぶと眠り峠登山口に到着!因みに、眠りとはカーブの多い道の事だそうです。国道19号が出来るまでは、生活の道だったそうです。

国道19号まで下り、生坂村が出してくださったバスに乗って、車を停めた京ヶ倉登山口へ。生坂村の方々、ありがとうございました!

「京ヶ倉・大城」は、ちょっとした岩場とナイフリッジ状の馬の背に気を付ければ、初心者の方にも十分楽しめる山だと思いました!

 

下山後のお楽しみ、生坂村の観光

下山後、いろいろとお世話になった生坂村の為に何かお返しをしなきゃと、GW直前にオープンした道の駅「いくさかの郷」で生坂村名物(なのかな?)「お煮かけうどん」を食べて帰ろうと思ったのですが…… あまりの大盛況で食堂には人が溢れかえっていたので、恩返しはまたの機会としました(涙)

生坂村の施設】ですが、道の駅から車で5分程のところに、宿泊施設「やまなみ荘」があります。良心的な価格設定のお宿で、日帰り入浴もあり登山でかいた汗を流すことができます。

他にもざっと村内を車で走ってみたところ、パラグライダーを体験出来たり、巨峰が特産であったり、もちろんうどんの他に山菜おやきなどもあり、アウトドアや食事に楽しめそうな村でした。詳しくは生坂村観光情報でご確認ください。

実は今まで生坂村にはパッとしないイメージを持っていましたが、きれいな登山パンフレットを作成したり、登山客の為のサービスをしたりと地味なイメージが払拭されました。

個人的には、村の人に聞いたのですが、ハンガリーと繋がりを作って行く予定のようで、向こうの伝統音楽のライブ開催なんかを期待しています!

 

疑問の始まり「向こうにも同じような山が……」:双子山脈の謎

稜線上を歩いていると、

「あれ?同じような稜線が向こうの東側にもあるなぁ……」

「ところどころ崖になってるし、遠いけど石も同じようにみえるなぁ」

「京ヶ倉・大城」の稜線と平行に走る東側の稜線を見るとノコギリ状で険しく、こちらの山と同じような顔つきをしていることに気付きました。

この東側の稜線は岩殿山から続くので、仮に「岩殿山稜線」と呼ぶことにします。

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大城と京ケ倉(左写真、大峰高原より撮影)と、岩殿山稜線(右写真。右奥は四阿屋山と大沢山)。

 

岩殿山稜線をよく見ると、同じような石からなる崖が至る所に顔を出しており、こちらよりもさらに危険な香りに満ちています……あっちの馬の背の方がより長大ですねぇ……

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岩殿山稜線の拡大(手前の稜線、奥は四阿屋山と大沢山)

 

「京ヶ倉・大城」を造る石

京ヶ倉・大城の山域は堆積岩、すなわち泥岩、砂岩、礫岩の地層によって広く覆われています。実際登ってみて、ほとんど堆積岩しかありませんでした。斜面は砂岩優勢、稜線は礫岩優勢に感じました。(礫岩は真砂化した花崗岩のようにも見えました……)

これらの堆積岩は、日本列島の原形ができた後、およそ1000万年前のフォッサマグナの海が埋め立てられていく過程で堆積したと考えられています。

 

この地域の石の分布図(地質図)を見てみると……

つくば市筑波研究学園都市にある産総研地質調査総合センターのウェブページ上には、日本全国の地質図(地表面にどのような石が表れているかを示した図)が公開されています(地質図Navi - 産総研)。

この地域の1/5万地質図を見ると、「京ヶ倉・大城」と「岩殿山稜線」の間で同じような縞模様が東西対称に走っており、同じような石からなることが分かります。

 

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出典:産総研地質調査総合センター 1/5万地質図幅「信濃池田」 (佐藤・加藤, 1983) を一部改変

 

地層が折れ曲がった「褶曲構造」

さらに、東西方向の断面図を確認すると、黄色とオレンジの部分が谷状の形をしています。このような構造を褶曲(しゅうきょく)といいます。

褶曲とは、長期間大きな力が掛かることによって地層が波状に折れ曲がる現象です。因みに、山状の部分を背斜(はいしゃ)、谷状の部分を向斜(こうしゃ)といいます。

例えば、よく知られた褶曲構造としては(形成過程は異なりますが)、以下の紀伊半島のフェニックス褶曲が有名で、理科の教科書で見かけることがしばしばあります。

出典:「ブラタモリ富士山編」の案内人、静岡大学小山真人先生のツイート

 

双子山脈の謎解き

以上見てきたように、この二つの稜線の類似性は主に同時代の地層と褶曲構造に起因するのかもしれません。

すなわち、この地域にプレート運動に関連した大きな力が長い間にゆっくりとかかることにより、昔海底に堆積した水平な地層が地下で折れ曲がり、東西に同じような地層が地表に現れ、浸食に強い地層が残ったことによって、顔つきの同じ稜線「双子山脈」が出来たのでしょう(例えば、水野, 1976)。

※これは既存の研究を参考にして思った、個人的な感想です。

 

おわりに

帰宅後、「京ヶ倉・大城」周辺を調べていると、意外にも多くの岩殿山稜線に登っている方のブログがありました。どのブログを拝見しても、あちらの山の方が難易度が高いようです。というか、下手な北アルプスの山よりも危険です!もう少し勘を取り戻してから、いずれ挑戦してみたいですが(ビビりなので、ほどほどにですが、笑)、その前に、京ヶ倉・大城にまた登って帰りにうどんを食べたいですね!良い山でした!

 

引用・参考文献、ウェブサイト
産総研地質調査総合センター発行の地質図の二次利用について(2016年10月)

国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター(GSJ)は、公的機関によるオープンデータの推進と、地質調査総合センターの研究成果情報のより一層の普及のために、利用についてのライセンスの見直しを行い、10月3日より発効いたしました。

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引用元:地質調査総合センターの研究成果情報の利用に関する新ライセンス導入について