南アルプスの女王『仙丈ヶ岳』:3つのカールが造る雄大な山容の由来を調べてみる Jun 25, 2019
今回も梅雨の合間を縫ってテント泊をしてきました。
今月は常念山脈を登り体力的に余裕があると判断したので、さらに高山に慣れるために比較的楽に登れる3,000m峰を選びました。
- 登山口までのアクセスが良い
- 登山道が良く整備されており、危険個所が少ない
- キャンプ場がきれい、または水場がある
を基準に探してみると、「立山雄山(標高3,015m)」と「仙丈ヶ岳(標高3,033m)」の2山が候補に。
「立山」は室堂まで交通機関を使って上がれば、数百m登るだけで頂上に立てます。が、立山黒部アルペンルートは往復(扇沢ー室堂)で9,000円超……しかも、小学生の夏以来、何回も登っています。
一方、「仙丈ヶ岳」のある南アルプスは、高校生の夏に北岳に行って以来訪れていません。さらに、甲府駅での慣れない野宿の疲れの為に高山病になってしまい、肩の小屋止まり……
ということで、ほとんど訪れたことのない南アルプスの「仙丈ヶ岳」、プラス「甲斐駒ヶ岳」にテン泊登山に行ってきました!
※地図を掲載するの忘れてました……仙丈ヶ岳登山案内の項目にグーグルマップを載せました(6/30)。
Contents
仙丈ヶ岳と登山道からの眺め
平日のバスが8時始発&登り開始が10時半と遅かったので、朝の快晴から雲が出てしまい、中央アルプスや遠くの山は見られませんでした。しかし、鳳凰三山以外の南アルプスは良く見えて満足の眺めでした!
鋸岳(バリエーションルート)と甲斐駒ヶ岳
甲斐駒ヶ岳は、周囲の山の石*3と違って花崗岩からなります。白い!
アサヨ峰。鳳凰三山は雲の中……
北岳。最近の雪でしょうか、うっすら雪化粧。肩の小屋も見えます。
南アルプス南部の塩見岳~光岳。アクセス悪し&ルート長し……いつか行けたらいいな~
やはり、きれいな眺めを望むなら朝早くに登りたいですね。翌日は甲斐駒ヶ岳の予定です。天気予報は晴れ、そして早朝に発つ予定ですので期待大です!はれろ~!
以前の記事にも載せましたが、下山途中にライチョウを見かけました。
テン場が圏外でしたので、途中の小仙丈ヶ岳で、ブログの記事に頂いたコメントに返信して下山し始めると、甲斐駒ヶ岳をバックにライチョウが!
眼の上が赤いので、オスかな?
「うざい人間がいるなぁ。なにみとるんじゃぁわれ~」ガン飛ばされました(笑)
ずーっと監視されてました。
ライチョウには個体識別の為の足環がありました。人慣れしているようで、20分程でしょうか、私が立ち去るまでずっと同じ場所に佇んでいました。こちらに気付いても逃げる様子はありませんでした。巣で卵を温めるメスの為に監視していたのかもしれませんね。
仙丈ヶ岳(標高3,033m)登山案内
長野県伊那市と山梨県南アルプス市の境に位置し、赤石山脈の3,000m峰として最北になります。山腹に3つの圏谷*4を抱く穏やかな山容は「南アルプスの女王」と称され、深田久弥の日本百名山にも名を連ねています。
仙丈ヶ岳のグレーディング(長野県公表。H30. 4)は、北沢峠~仙丈ヶ岳~北沢峠で 3C*5(7.6h*6, 9.5km*7, 1.12km*8)となり、ある程度経験を積んだ登山初心者の方には最適な山になるのではないでしょうか。3,000m峰の登竜門的な山ですね。
もちろん、登山は慎重に。これまで登った山と比較し、そしてご自身の体力・技量を鑑みてトライできるようであれば、登ってみると良いかもしれません。
甲斐駒ヶ岳登山口とありますが、仙丈ヶ岳の登山口でもあります。
登山口(北沢峠)までのアクセス
仙丈ヶ岳への登山ルートはいくつかありますが、今回は一番人気の「北沢峠(小仙丈ヶ岳経由)コース」にしました。
伊那市仙流荘の横にある「南アルプス林道バスのりば」からマイクロバスに乗り1時間弱で北沢峠です。
道の向こうには鋸岳。始発時刻は時期により異なります。
北沢峠のこもれび荘。テント場はありません。山梨県側に少し下った長衛小屋にテン場があります。
行き帰りとも同じ気さくな運転手さんで、車窓から見える景色の説明をなさっていました。帰りは運よく助手席に座らせて頂き、運転手さんとたくさんお話をさせて頂きましたが、ご自身も良く登っておられるようで、南アルプスの様々な登山ルートを教えて頂きました。
右の写真:鋸岳の鹿窓。見えるかな…?
また驚いたことに、最盛期は10台×2で北沢峠までピストンするそうです。山梨側からも合わせたら恐ろしいことに……みんな泊まれるのかな?
最盛期にはこの数倍のバスが……
登山道状況(北沢峠~小仙丈ヶ岳~仙丈ヶ岳)
北沢峠からは5合目までは樹林帯を歩きます。道は山頂までよく整備されており、危険な個所は特にありません。登山者として標準的な体力があれば、歩いていれば山頂にたどり着くレベルです。
北沢峠の仙丈ヶ岳登山口。
ただし、五合目*9(大滝の頭)の分岐では、馬の背方面は事故の為に通行禁止でした。
この五合目を過ぎると、周りの植生は次第にハイマツ帯へと遷移し、展望が広がります。なお、この区間では登山道に雪が2ヶ所ほどありましたが、規模(長さ10m程)も小さくトレースがはっきりしていたので、気を付ければ危険のないものでした。
左には北岳、後ろには甲斐駒!よーく見ると、長衛小屋のテン場も見えます。
6合目まで来ると、完全に高山の世界に。
右奥のピークは小仙丈ヶ岳(2,864m)。
眺めの良い小仙丈ヶ岳でお昼を食べました。
この先はちょっとした岩稜帯(鎖場なし)もありますが、丹沢の表尾根など簡単な岩登りに慣れている方であれば全然問題ないでしょう。
小仙丈沢カールを左手に見ながら稜線沿いに登ると、右手に藪沢カールと仙丈ヶ岳山頂が見えてきます。
雪渓のクレバスが気になります……
藪沢カールとその底にある仙丈小屋を下に見ながら緩やかな稜線を回り込むと、やがて頂上に!
帰りは同じルートを通って、長衛小屋まで下山しました。 たのしかった~!
宿泊施設
北沢峠周辺には3つの山小屋があります。北沢峠のこもれび荘、伊那市側にある太平山荘、そして南アルプス市にある長衛小屋。
それぞれの山小屋の間隔は歩いて10分程。こんな至近距離に多いなぁと不思議に思いましたが、伊那市長の寄稿文・講話集を読むと何やら複雑な背景がありそうです……
今回は、北沢峠から山梨県側に10分程下った、唯一テン場のある長衛小屋でテント泊をしました。料金は一人一泊500円です。やすい!川砂利の地面でペグは刺さりにくいですが、大きな石がたくさんあります。水は無料。トイレは水洗でした。
欠点は空が狭いことくらいですかね。隣には沢が流れ、きれいなテン場で居心地が良かったです。また来たいと思わせるテン場でした。
長衛小屋テント場の規模は100張。右の写真の下にも敷地は広がります(奥の山は小仙丈ヶ岳)。
南アルプスの女王「仙丈ヶ岳」の生い立ち
仙丈ヶ岳の山頂付近には「カール(圏谷)」があります。
カールとは、穂高連峰の涸沢カールや立山の山崎カール*10等でよく知られていますが、山岳氷河の浸食による椀状の地形の事を言います。
約7万年前~1万年前の最終氷期に日本列島の山岳地帯では山岳氷河が発達していました。氷河が造る地形はいくつかありますが、仙丈ヶ岳には氷食によってカールが出来ました。南アルプスには仙丈ヶ岳の他に、間ノ岳、荒川岳、悪沢岳にもカールがあり、荒川岳のカールは日本最南端のものになります。
仙丈ヶ岳は山頂の周りにカールが3つ(大仙丈沢カール、小仙丈沢カールと藪沢カール)もあります。
これら3つのカールが仙丈ヶ岳を削ったことにより、穏やかな山容が造られました。その結果、仙丈ヶ岳は南アルプスの他の山々と比べ柔和で女性的な印象をもち、「南アルプスの女王」と呼ばれているのでしょう。
小仙丈沢カール(左)と藪沢カール(右)
藪沢カール底部、仙丈小屋の右下にある高まり(モレーン)は、氷河に削られ末端まで運ばれ堆積した砕屑物。
一方、仙丈ヶ岳を構成する石はおよそ数千万年前の砂岩主体で、他に粘板岩やチャートからなります。主に海に堆積した地層が仙丈ヶ岳を造ります。
では、海の地層からなる仙丈ヶ岳がなぜ標高3,000mを越え、山岳氷河を形成するほどの高峰になったのでしょうか?
それは、南アルプスが年間約4㎜以上の速さで隆起しているからです。
日本列島は4つのプレートがひしめき合う、世界でもまれに見る変動帯です。このプレートの運動により、南アルプスは世界でもトップクラスの隆起量を誇ります。また、周囲の地質調査から、南アルプスは約100万年前から隆起が始まったと考えられています。
余談ですが、日本三大崩れの一つ「大谷崩」が代表するように、この隆起量の為に浸食量も大きく、南アルプスは不安定な土地です。そのため、深層崩壊などの地滑りの危険性が高い地域とされています。
以上のように、約100万年前から続いた急速な隆起と数万年前の最終氷期の氷河による浸食によって、南アルプスの女王が誕生したのかもしれません。
おわりに
1日目は出発時刻が遅く、仙丈ヶ岳には午後2時頃に着きました。山頂の景色を楽しみ小仙丈ヶ岳に下る途中、物凄い勢いで登ってくるテン泊装備のお兄さんに会いました。
この時刻にこれからどちらに向かうのだろうと、あいさつの後に伺ってみると、両俣小屋のテン場に向かうとのこと。両俣はここから5時間以上先……。
さらに伺うと、朝は黒戸尾根から甲斐駒を登ってきたそうです。黒戸尾根は剱岳の早月尾根と並ぶ日本屈指の長丁場の急登。ちょっとやりすぎたと後悔の弁でしたが、楽しそうでした。体力あればこその山行ですね。
私には、ただただ感心・驚きでした(帰りのマイクロバスの運転手さんも絶句してました)が、 そんな体力も気力もない私はこれからもお気楽登山を楽しみたいと思います(笑)。
引用・参考文献
- 信州 山のグレーディング:長野県公式
- 長衛小屋をめぐる歴史:伊那市公式、市長 寄稿文・講話集
- 河内洋佑・湯浅真人・片田正人(1983)市野瀬地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1地質図幅).地質調査所, 70p.(リンク、産総研地質調査総合センター)
- 【改訂版】南アルプス学概論(平成22年3月改訂):静岡市公式、南アルプス世界自然遺産登録