白皙の貴公子『甲斐駒ヶ岳』:白砂の登山道の先に待つ天上の世界には、伊豆半島衝突の…!Jun 26, 2019
東京と名古屋を結ぶ「中央自動車道」を走ると、必ず寄るパーキングエリアがあります。
そして、南アルプス北部の山々などを眺めることができます。
その中でもひと際存在感を放つ「甲斐駒ヶ岳」
以上これまでの写真は、今年の正月に八ヶ岳PA(下り)で撮影したものです。
山から遠ざかっていた時も、この辺りを通るたびに甲斐駒ヶ岳を見上げていたものでした。急峻で男性的な山容に無意識のうちに視線が吸い寄せられていました。
甲斐駒ヶ岳と言えば、白州の黒戸尾根から山頂に至るルートがよく知られています。しかし、黒戸尾根は早月尾根*1と並び長大な急登であり、久しぶりに山登りを再開した私には体力的に無理です!
ですので、今回の山行では反対側の北沢峠から山頂を目指しました。
Contents
甲斐駒ヶ岳頂上からの眺望
まずは、山頂からの眺めです!
当日は天気予報通りの晴れ。程よく出ていた雲がアクセントとなり、素晴らしいパノラマが360度広がりました!
パノラマ
広角で360度!北アルプスから時計回り!
北アルプス全景
八ヶ岳を中心にいろいろ!(北信五岳、霧ヶ峰、上信国境、秩父などなど)
秩父山系
富士山と雲の下の甲府盆地
ワンツースリー!(富士山、北岳、間ノ岳と南アルプスの山たち)
以上、パノラマ終わり!
ズームアップ
立山と剱岳。手前は燕岳、有明山、餓鬼岳、針ノ木岳、蓮華岳。(トリミング)
秩父山系
大菩薩嶺方面
富士山と鳳凰三山
御嶽山と白山
ため息しか出ない山頂の一時でした。
13時10分のバスに乗るため、頂上には30分程の滞在でしたが、もっといたかった~!
甲斐駒ヶ岳について
甲斐駒ヶ岳(標高2,967m)は、長野県伊那市と山梨県北杜市の境に位置します。長野県側では甲斐駒ヶ岳の事を「東駒ケ岳」と呼びます。
なだらかな山体を造る南アルプスの他の山と異なり、甲斐駒ヶ岳は峻険な山容を呈します。
また、山体を造る白色の花崗岩は、周囲の暗色の石からなる山から際立ち、その険しさと白さによって、南アルプスの貴公子とも呼ばれ、深田久弥の日本百名山に選ばれています。
甲斐駒ヶ岳に至るルートはいくつかありますが、「黒戸尾根ルート」と「北沢峠ルート」がメジャーとなります。
白州の尾白川から上がる「黒戸尾根ルート」は、標高差2,200mもあり、日本屈指の長尺の登山道となります。一方、「北沢峠ルート」は標高2,030mの北沢峠*2が開始地点となり、比較的容易に頂上に達することができ、人気の登山コースとなっているようです。
今回の甲斐駒ヶ岳登山は、後者の「北沢峠ルート」を選びました。
登山道状況(北沢峠ルート、頂上直下は巻き道コース)
「北沢峠ルート」のグレーディング*3は、仙丈ヶ岳と同じく3C*4となります。
しかし、
- 岩稜帯が多い(鎖場は無い)
- 頂上直下の滑りやすい道(巻き道)
を考えると、仙丈ヶ岳よりも難易度は少し高いと思います。特に、直登ルートを選択すると岩登りの覚悟が必要です。
北沢峠から駒津峰まで
登山開始は、昨日の仙丈ヶ岳登山口の反対側、北沢峠のこもれび山荘脇の登山道からです。
甲斐駒ヶ岳までに双児山(標高2,649m)と駒津峰(標高2,752m)の二つのピークがあります。
双児山までは樹林帯を歩きます。
トトロが体当たりでもしたの?w 大木がバキバキに折れてます。高度が上がるにつれて、イワカガミなどの高山植物も。
双児山(標高2,649m)からハイマツ帯となり、視界が開けます。
甲斐駒ヶ岳。あ、カサ出てますね~。
横を見ると、鳳凰三山!甲府盆地は雲の下。振り返ると、南アルプスの主稜線!
双児山から一旦下り、ハイマツ帯の斜面を登り返すと駒津峰(標高2,752m)です。
鋸岳の向こうに北アルプス!テンション上がります!
うぁ、岩だらけ…。どこ登るんだろう(ちょっとテンション下がるw)。でもソフトクリームみたい、美味しそう~ww
駒津峰から甲斐駒ヶ岳まで
駒津峰から甲斐駒ヶ岳の取り付きまでは、ちょっとした岩場になるので気を付けましょう。
左に六方石。逆光 (-_-)
六方石を過ぎ、最低鞍部から少し登ると、直登ルートと巻き道の分岐に。直登はある程度の登攀スキルが必要のようです。巻き道も真砂化*5した花崗岩で滑りやすく歩きにくいです。
もちろん巻き道を選びました(笑)。安全第一!って、山登ってる時点で……
深く積もった砂に足を取られないように、慎重に登りましょう。
急斜面、滑りやすい&眩しい!
上部は踏み跡が交錯する部分もあるので、目印をしっかり見て迷わないように。
あとすこし!
振り返ると、おおぉー!!白砂のビーチの先にはワンツースリーw
分岐から1時間ほどで頂上です!
お腹すいたーw
帰りはさらに滑りやすいので、慎重に下りましょう!
山頂や途中で「下りは大変だね」と話している方が多かったです。
甲斐駒ヶ岳を造る花崗岩、甲斐駒花崗岩と伊豆半島の衝突の関係
赤・赤紫色は花崗岩類を示す。出典:産総研地質調査総合センター、シームレス地質図V2に一部加筆(リンク)。
南アルプスの大部分を造る「四万十帯」
南アルプスの大部分は、2億年前から2,000万年前の海底に堆積した地層や少数の火山岩からなります。
これらの石は、海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む際に、海洋プレート表層部がはぎ取られて、大陸プレートに付け加えられた地層です。このような地層は「付加体」と呼ばれ、この地域だけでなく日本列島に広く見られます。
この地域に見られる付加体は「四万十帯」と呼ばれ、南アルプスの大部分を占めます。前日に登った仙丈ヶ岳もこの四万十帯の石から成ります。
以上の内容は、引用・参考文献の1によります。
伊豆衝突帯の花崗岩、「甲斐駒花崗岩」
一方、甲斐駒ヶ岳を造る石は花崗岩です。花崗岩とはマグマが地下深くでゆっくり冷え固まった石で、いわばマグマの化石です。
甲斐駒ヶ岳の花崗岩を「甲斐駒花崗岩」と言います(以下、甲斐駒岩体)が、最近の研究(引用・参考文献2,3)から、1,500万年前に四万十帯に貫入固結したと考えられています。この時代は、日本列島の原形が完成し、その本州弧に伊豆半島が衝突していた頃でした。
マグマが発生する場は色々とありますが、甲斐駒岩体を造ったマグマは、その衝突する伊豆半島(伊豆小笠原弧)を乗せたフィリピン海プレートの地下深くが融けたものです。
地下深くで発生したマグマは、上方にある四万十帯の中を、周りの石を融かし*6ながら上昇し定置・固結したものと考えられています。
四万十帯の石を捕獲する甲斐駒花崗岩
「え?甲斐駒ヶ岳と伊豆半島は遠く離れているけど?」とお思いになる方もいらっしゃるでしょう。
伊豆半島はフィリピン海プレート上にあり、そのフィリピン海プレートは大陸プレート(ユーラシアプレートと北米プレート)に沈み込んでいます。現在、甲斐駒ヶ岳の地域では地下数10㎞~100㎞の深さにフィリピン海プレートがあると考えられています(引用・参考文献4)。
伊豆半島の衝突(フィリピン海プレートの沈み込み)に伴って発生したマグマは他にもあり、この周辺では甲府岩体、丹沢岩体があります。さらに同じ時代に活動していたマグマとして、熊野、足摺岬、屋久島などにも同様の花崗岩類が見られます。
ちなみに、東海・東南海・南海地震さらに日向灘沖の海溝型の大地震を引き起こす主な原因としても、このフィリピン海プレートの沈み込みが考えられています。
まとめ
以上簡単にまとめると、甲斐駒ヶ岳の花崗岩は、1,500万年前に衝突していた伊豆半島(フィリピン海プレート)の地下深くが溶融し、四万十帯(まだ南アルプスは存在しない)を上昇・同化しながら定置した花崗岩である。その後、100万年前に始まった南アルプス地域の隆起によって、現在の姿を形成したと考えられるかもしれません。
おわりに
双児山から北沢峠を下っていると、物凄いスピードで登ってくる姿が!もしや?と思いよく見ると、前日に仙丈ヶ岳の下りでお会いしたお兄さん!
昨日は黒戸尾根から両俣小屋のテン場。今日は両俣から黒戸だそうです。バイタリティーの凄まじさに感服する限りでした。私にはいくら頑張ってもマネできないことだと思います。
ですが、登山は個人の力量に応じて楽しむもの。楽しみ方も、景色を楽しんだり、花や小動物を見て楽しんだり、はたまた石を見て楽しんだり(かなりマイノリティだと思いますが…)、さまざまです。
最近は、鳥にも興味を覚えて野鳥図鑑を買ってしまいました(笑)。今まで知らないことを覚えると、それまで見えていなかったものが見えてきますね。
ほんと、山は奥深いですね!
同日に訪れた白馬。この日はずっといい天気でした!