【山行記録+山の形成史】高ボッチ山 (1665m) on Mar 17, 2019:ダイダラボッチの吹く息に阻まれ、あえなく撤退……
写真:隣の鉢伏山 (1929m) からの眺め(20190110 撮影)。今回は高ボッチ山山頂からの景色は撮れませんでした…
今回登った山、高ボッチ山は、日本有数の富士山のビューポイントです。
ここ10年程でしょうか、写真愛好家の方たちの間で高ボッチ山は人気撮影スポットになったようです。
彼らが撮影した諏訪湖越しの富士山の美しい写真がインターネットを中心に紹介されるようになり、高ボッチ山は多くの人に知られるようになりました。
そのおかげもあってか、最近は人気アニメ作品(君の名は、ゆるキャンなど)でも取り上げられるようになりました。
最近注目を集める高ボッチ山へ久し振りに行ってみようと、セント・パトリックス・デイ(3/17)に初の登山に挑戦してきました。しかし、悪天候のため山頂直下で撤退してしまいました……
今回は、高ボッチ山の特徴や登山道、そして高ボッチ山がどのようにできたのか紹介していきます。
高ボッチ山とは
標高1665mの高ボッチ山は、長野県塩尻市と岡谷市の境にあります。高原状のなだらかな山容を持ち、登山口からの比高差も600m程度と小さく、比較的気軽に登れる山です。
写真:中央が高ボッチ山。左端のピークは鉢伏山。北から撮影(右手が西方向)。
また、春から秋にかけては自動車で容易に頂上まで登ることができ、気軽にレンゲツツジやハクサンフウロなどの高山植物と共に、日本を代表する山々の景色を楽しむことができます。
高ボッチ山の地形的特徴と名前の由来
高ボッチ山の頂上は平原状で、東斜面とは対照的に松本盆地側の西斜面は緩やかです。西斜面だけ見ると火山的な様相ですが、火山体を残す程新しい火山(例えば、八ヶ岳や御嶽山などの第四紀火山)ではなく、頂上付近は1000万年前くらいの比較的古い堆積岩や火成岩からなります。
幾つかある高ボッチ山の名前の由来の一つに、巨人のダイダラボッチ伝説があります。
私の妄想ですが、ダイダラボッチが高ボッチ山の平らな頂上に腰かけて富士山を眺めていた時に、眺めの良さに驚き転げ落ちて、なだらかな西斜面が出来たのかもしれませんw
冗談はさておき、後半で簡単な山の成立ちについて述べますね。
山行ルート
日時:2019年3月17日
ルート:ブリーズベイリゾート塩尻かたおか(旧:アスティかたおか)>高ボッチ牧場>撤退同ルートで下山
歩行距離:約10㎞
所要時間:登り約4時間(コースタイム 2:50)、下り約3時間(同 1:50)
最低標高:1015m、気温:-4℃(6:30)
最高標高:1610m、気温:1℃(11:00)
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ヤマレコから引用: 登りのルートだけ表示。下りも同じルートです。(ヤマレコはまだ使い始めで設定が良くわからないので、正しく表示されないかもしれません…)
ルート説明
ブリーズベイリゾート塩尻かたおか(旧:アスティかたおか、標高1015m付近)の駐車場奥の登山口から山頂を目指しました。
写真:マイクロバスの奥(左の写真)に隠れている白い平屋の建物の手前に登山口があります(右の写真)。
麓はなだらかで歩きやすかったのですが、徐々に倒木と雪が増え、踏み後もなくなり、登山道が分かり難くなっていきました。
写真:登り始めの登山道の様子
中腹から徐々に雪が深くなり、、、
写真:1175m付近の林道(写真後)から登山道分岐
自分の足跡も深くなり始めます。
写真:1265m付近の林道から登山道分岐(左右)
1400m付近の鉄塔から数日前の足跡(単独)があり、稜線に広がる牧場(1510m)へと続き、積雪期ルートを辿っていました。
しかし今回は稜線付近が吹雪いていたので、通常ルートの樹林帯の中を進みました。
山頂に近くなるにつれて脚が完全に埋まるほどの積雪で踏み後もなく、登山道が完全に隠れていました。
深い雪の中ルートを注意深く見極めながらの行軍でしたので、登り3時間弱の所を4時間程かかりました。
(登山道以外に巻かれた赤テープが所々にあり惑わされました……おそらく林業関係の方が、森林管理の為に木に巻き付けたのでしょう……
写真:徐々に雪が深くなります(左:1490m、右:1530m)
残念なことに、頂上は風が強く吹雪いていました。ゴールまで後少しでしたがやむを得ず撤退しました。
写真:1610m付近。あとちょっとで頂上ですが、ここからは吹きさらしのルート……
この冬は近くの山に登っており(1月に鉢伏山、2月に美ヶ原高原)、雪が少ないことを確認していました。
今回も少ないだろうと思っていましたが、予想外に雪が深く時間がかかってしまいました。3月初旬の降雪で積雪量が大幅に増えたようです。
もしかしたら、気まぐれなダイダラボッチが吹いた息のせいかもしれませんw
近いうちに、様子を見てリベンジしたいと思います!
おまけ
登山中に鹿の群れを見かけました。フレーム外にも数頭おり、10頭くらいの群れでした。
下山時に、自分の足跡やその脇に動物の足跡がついていました。
写真:自分の足跡の中に鹿の足跡(左)。タヌキ?が自分の足跡の横に(右)。
地質概説
ここからは、高ボッチ山の成立ちについて見ていきたいと思います。まず、高ボッチ山は、糸魚川ー静岡構造線の東側、フォッサマグナの西端に位置します。
図:高ボッチ山は「ナウマンのフォッサマグナ」の「の」付近にあります。
日本列島は約2500万年前からユーラシア大陸から分離して、およそ1500万年前頃に日本列島の原型が出来たと考えられています。
日本列島が出来た時、東北日本と西南日本の間には海がありました。この海がフォッサマグナの最初の姿です。
高ボッチ山の成立ち
高ボッチ山はそのころから徐々に出来上がっていくのですが、専門家の研究によると、大まかに以下の段階を経ているようです。
- 1500万年前から数100万年前、フォッサマグナの海が徐々に陸化し埋め立てられ、現在の高ボッチ山の地層を作った(熊井他 1997)。
- 約100万年前、飛騨山脈が隆起し始める頃、松本盆地は堆積・浸食によって平原状の地形を作った(熊井他 1997)。
- 松本盆地東側において、数10万年前に活動を開始した断層活動によって、高ボッチ山が隆起した(熊井他1997、高畑 2015)。
以上、1000万年の時を経て堆積>浸食>平原化>隆起によって、頂上が平らな高ボッチ山が出来たことが窺えます。また、このような地形を隆起準平原とも言います。
先月登った美ヶ原高原は100万年ほど前の溶岩台地です。同じような平坦な頂上でも、隆起準平原の高ボッチ山とは成因が異なり、面白いですね!
ところで、記事の最初の方で、ダイダラボッチが転がったことで西斜面がなだらかになったと妄想しました。地質学的にこのことを考えてみると、、、
上記の3段階目の断層が高ボッチ山西麓に広くみられる(高畑 2015)事が確認されています。
この西麓の断層によって斜面が破砕・崩壊し優先的に侵食されたことによって、火山のような緩やかな斜面を作ったのではないかと思います。
真偽の程は……ですが、この緩斜面のお陰で、私の街からでも南アルプスが見えるのは嬉しいことですw
写真:アルプス公園から南アルプス。
引用文献
熊井久雄・渡辺義人・沖野外輝夫・藤原正男・荻原敬三・飯田実(1997)アーバンクボタ, No.36 諏訪湖.
高畑萌子(2015)松本盆地南東部,高ボッチ山西麓に発達する"崖の湯断層群", 地球科学 69巻 1号 p.31-45.
参考文献
平朝彦「日本列島の誕生」岩波新書
藤岡換太郎・平田大二編著「日本海の拡大と伊豆弧の衝突ー神奈川の大地の生い立ち」有隣新書
参考にしたウェブサイト
高ボッチの名前の由来について(国立国会図書館、レファレンス共同データベース)