山と愛蘭土 ☘ Sliabh & Éire ☘

山の歴史やアイルランドの文化を綴っていきます

富士山の3776mって、どこからの高さなの?:標高の始まり「日本水準原点」

「次はあの高い山に登ろう!」

富士山や日本アルプスなど高い山々に憧れを抱き、山登りの目標にしている登山者は少なくないと思います。

でも、その憧れの山の頂きに記された標高は、一体どこからの高さなのでしょうか?

もしかしたら疑問に思う人は少ないかもしれません。憧憬や興奮にそのような疑問はかき消されがちで、普段の私もほとんど思いません......

偶然にも、週末の東京旅行で都心の地図を眺めていると、すべての日本の標高が始まる基準点を見つけたので、ぷちブラタモリ気分で探してきました!

目次

 

日本全国の高さの基本となる「日本水準原点

標高と言えば、小学校の地理で習ったように、高さを測るときの基準となるものがあります。例えば2万5千分1地形図をよく見ると、主要道路上に数字が添えられた正方形が所々に確認できます。これが高さの基準「水準点」です。

水準点は主な国道や県道に約2km毎、全国に約2万点設置され、土地の高さを測量するときに使われています。では、この水準点の標高はどのように決められたのでしょうか?

日本各地にある水準点の標高を定めるものが、実は東京都心の真ん中にあります。水準点の中の水準点、「日本水準原点」と言います。

 

どこにあるの?

意外にも、この日本水準原点は多くの日本人が1度は行っているあの場所の目と鼻の先にありました。

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写真と地図からお分かりのように、国会議事堂の前庭に、日本水準原点は立派な石造りの建物に収められ、その建物は照葉樹に囲まれて佇んでいました。

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いつ造られたの?

国土地理院のウェブサイトによると、日本における標高は、東京湾(正確には、後述するように神奈川県三浦半島の油壷)の平均海面を0mの基準面として、その基準面からの高さで決められます。しかし常に変動する海面から標高を測定することは実際的ではありません

そこで、100年以上前、第1回衆議院選挙の翌年、1891年(明治24年)に陸軍陸地測量部(国土地理院の前身の一つ)が、測量部の庭園が固い地層からなる台地であったため、この地に日本水準原点を造りました。この水準原点に基づいて水準測量(高さの測定)が実施され、日本の主要な道路に水準点が設置されていきました。

 

ところで、当時の国会議事堂(仮議事堂)は現在の経済産業省の敷地にありました。現在の国会議事堂は1936年に建てられたものです(ウィキペディアより)。

 

海面から何m?

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水準原点は石造りの建物に守られています。

日本水準原点国土地理院)のウェブサイトを参照すると、

建物正面にある菊の御紋の扉の内部*1に、白い花崗岩の台が設置されています。その台に目盛りが印された水晶板がはめ込まれています。

水晶板の目盛りのゼロ表示部分と潮位観測地の平均海面の高さの差を水準測量し、その値が水準原点の標高となります。

この菊の御紋の扉は普段閉まっており、その中を見ることができません。ですが、年に一度だけ、「測量の日」の記念行事として、5月下旬に扉が開放され水準原点が公開されます。

原点が作られた当時の標高は、隅田川河口霊岸島の平均海面から24.500mと決められました。その後の大きな地震による地殻変動で原点の標高は改定され、1923年の関東大震災に24.4140m、2011年の東日本大震災に24.3900m(現在の高さ)と改められました。

また現在の潮位の観測地は、隅田川河口付近から神奈川県三浦半島の油壷に変更されています。現在も定期的に水準測量が実施され、原点の標高が点検されています。

(油壷が、本当の日本の標高の基準なんですね!知らなかった!w)

山の標高は、この原点を基に従来の三角測量(水平位置の測定)や写真測量に加え、近年はGNSS測量(GPS測量)によって測定されています。

 

ところで、標高に類似した言葉として「海抜」があります。「海抜」とは近傍の海面からの高さを表します。つまり、「標高」は東京湾からの高さ、「海抜」は近くの海からの高さの事を言います。

 

水準原点の石造りの建物は、だれが?

水準原点を風雨などから守る石造りの建物(日本水準原点標庫)は、特徴的な建築様式で目を引きます。

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これは日本近代建築の父ジョサイア・コンドルの一番弟子、佐立七次郎の手によるものです。このローマ神殿の形式を借りた古典主義的な建築物は、平成8年に東京都指定有形文化財に指定されました(国土地理院のウェブサイトより)。

 

おわりに:「山の高さ」とは「人がその山に登る理由」

標高の基準点が意外にも良く知られた場所のすぐ近くにあり驚き、調べながら書いているうちに、説明的な面白くない記事になってしまいました……

ですが、標高の始まる場所(厳密には油壷ですが)に来てみて、「どうして山に登るのか?」についてまた再考するようになりました。

先日の日記で記した私の動機の様に、山に登る理由は千差万別でしょう。

その中で山の標高は、人が「その」山に登る理由に大きく影響しています。学生時代の私がそうであったように、高い山に登りたいと憧れ、いつか登ろうと心に決めている登山者は多いのではないでしょうか。

 

でも、高い山ばかり登っていると疲れますよね…… 頑張りすぎは事故にもなり兼ねませんし……

たまには休んで、標高が始まる地で、憧れの山を思う。これも登山かもしれませんね!

 

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今回の旅は寒桜咲く中、ぷちブラタモリ気分を楽しめました!ですが、久し振りの東京で慣れない雑踏に疲れました……それと、ブリティッシュ・パブ巡りで飲み疲れました。こっちのが疲れの原因……?w パブ巡りはまた別の記事で。今日はこの辺で……!

 

参考サイト 

今回の記事は、主に以下の国土地理院のウェブサイトを参考に作成しました。

*1:建物内部は、国土地理院の水準原点のチラシ、1ページ目左下にある写真で確認できます。>>国土地理院のチラシ(pdfファイル)