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山の歴史やアイルランドの文化を綴っていきます

アイルランド国境問題で揺れるアイルランドとイギリス、特に「アイルランド北部」と「スコットランド」の訛りが似ていることを考えるお話

アイルランドスコットランドなど、もともとゲール語圏であった彼らの英語は独特な響きを持ち、時として聞き取りにくい英語として認識されることがあります。

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(写真:赤いゲートの文字 "Pairc" はアイルランド語で、parkです)

アマゾンのプライム・ビデオで配信されているフィリップ・K・ディックのエレクトリック・ドリーム第5話「フード・メーカー」を見ていたところ、主人公演じるRichard Madden*1の話す英語に、どこかで聞いたことのある訛りを感じました。

調べてみると、彼はイギリスのスコットランドグラスゴー近くの出身でした。

私が以前アイルランドにホームステイしていた頃、アイルランド北部の人たちが話す英語とスコットランドの英語は似ていると思うことがよくありました。

これから、おそらくブレクジットの足枷になっているアイルランド国境問題の背景の一つであろう、この地域の英語の訛りの類似性について素人目線で見ていきたいと思います。

なお、俳優は役作りの為にさまざまな訛りを使い分けているかもしれませんが、作中でも彼自身の訛りを使っていると考えてお話を進めていきます。

アイルランドの英語

1949年にイギリスから独立したアイルランド共和国は、現在ほとんどの人が英語を話しています。ですが、第一公用語は英語ではなくアイルランド語です。

アイルランド語スコットランドと同様にケルト語派に属するゲール語族で、ゲルマン語派の英語とは文法や発音などが異なります。

アイルランド人は幼い頃から学校でアイルランド語を習ったり、外ではアイルランド語の標識を見たり、家ではアイルランド語の公共放送を見たり聞いたりして、母国語のアイルランド語に囲まれながら育ってきました。

ですが、アイルランド語を日常的に話したり理解出来たりする人は、ゲールタハトと呼ばれる西部の一部を除き、ほとんどいません。

たとえば私のホストファミリーは、アイルランド語によるハーリング*2のテレビ放送を見ている時にアナウンサーの喋っているアイルランド語が理解できないと言っていました…… なんだか日本人の英語みたいですね(笑)

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(写真:ハーリング。昔話にもよく出てくるアイルランド固有のスポーツ)

アイルランド語が使えない理由としては、やはり英語を話していれば日常的に困ることがないからだと思います。

このように、多くの人はアイルランド語を話したり聞いたりすることは出来ませんが、幼い頃から学んできた母国語がアイルランド人の英語の独特な訛りに影響を与えているのかもしれません。

アイルランド英語の訛りの多様性

また、一口にアイルランドの英語と言っても地域ごとで大きく変わり、同じアイルランドの英語とは思えないこともしばしばです。

アイルランド島は4つの地域に分かれます。共和国の首都ダブリンのある東部「レンスター」地方、私のいた南部「マンスター」地方、西部「コナハト」地方、そして北部「アルスター」地方。それぞれ英語の訛りは大きく違います。

この地域性は、私の想像ですが、イギリス統治時代の貧しかった頃、地域間の交流が少なかった名残ではないかと思います。

アイルランド北部の訛りとスコットランド訛りの類似性

さて、冒頭で述べたRichard Maddenの訛りについてです。彼の訛りは、イングランド英語などの訛りも入っているかもしれませんが、アイルランド訛り、特に北部のアルスター地方のものに似ているように感じます。

個人的な経験ですが、私のホストファミリーの親戚がアルスター地方のドニゴール州、エンヤ*3の故郷に近い街に住んでおり、そこで1週間ほど滞在したことがあります。Richard Maddenの訛りは、その地で聞いた訛りを思い出させるものでした。

彼の地元スコットランドアイルランド語と同じゲール語圏ですので、スコットランド英語とアイルランド英語は同じように聞こえるのかもしれません。

スコットランド移民の多い北アイルランド

アルスター地方はスコットランドと非常に近い距離にあったため、スコットランドからの移民が多い地域です。また、スコットランドとの文化的なやり取りも大きかったと考えられます。

そのため、アイルランドがイギリスから独立するとき、アルスター9州のうち、スコットランド系移民が特に多い6州がイギリスに残留する道を選びました。

スコットランド移民の英語がアイルランド北部の訛りに溶け込んでいったのかもしれません。

まとめ

以上のように、アイルランド北部アルスターとスコットランドでは、

これらの理由から、スコットランド出身のRichard Maddenの英語の訛りの中に、アイルランド英語の断片を聞き取ったのかもしれません。あくまでも素人の考えですが……

おわりに

最近は英語をほとんど使っていないので、また英語について専門的な事はあまり知りませんが、同じ英語でもその方言や訛りは地域ごとで結構異なりますよね。それを聞き分けて、話している人やその人の周囲のバックグラウンドを考えてみるのも楽しいものですね!

Richard Maddenの英語に何か親近感を感じ、他のお話よりも集中して興味深く見ることができました。お話自体も面白かったですし!

更にこのような訛りの類似性を辿っていくと、1970年代以降の北アイルランド問題や、現在ブレクジットの足枷となっているアイルランド国境問題の背景が分かってくるのかもしれませんね。(言語の事も政治の事も全然わからないので、もっと勉強しないと……

 

余談ですが、アイルランド英語をよく知らないアメリカ人が製作した映画「フィオナの海」*4を、ホストファミリーの親戚の家から帰ったあとに見たところ、アイルランド北部のお爺さんがコテコテのダブリン訛りを喋っていて、大きな違和感を感じました。お話よりそっちの方が気になりましたw

 

以上お話したことは、いろいろと間違っているかもしれません。もしアイルランド英語やイギリス英語に詳しい方がいらしたら、ぜひ教えてください!

*1:リチャード・マッデン(Richard Madden, 1986年6月18日 - )はスコットランドの俳優。HBOのテレビドラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』のロブ・スターク役、『ボディガード -守るべきもの-』のデイビッド・バッド役で知られる(ウィキペディアより)。

*2:ゲーリック・フットボールと共にアイルランド固有のスポーツ。ハーリングはホッケーに似ています。毎年9月前後に行われる全国大会は国を挙げてのお祭り騒ぎになります!

*3:アイルランドの歌姫。日本にもたびたび公演に来ています。

*4:「The secret of Roan Inish (1994)」はアイルランド北部アルスター地方のアザラシ、セルキーの伝説を題材にした作品(日本の羽衣伝説に似てます)。ストーリーや音楽は非常によく出来ていて、おすすめです!