中山(富山県):剱岳の眺望を手軽に楽しみたいならココ!+ちょこっと地質 May 30, 2019
富山湾から聳え、雄々しい山容を誇る「剱岳」は、厳しい日本海の気候に晒される冬期だけでなく、険しい岩稜帯からなるルートのため、夏期においても日本で最難の山の一つとして知られています。
時に牙剥くこの山で犠牲になった尊い命は数知れず、その麓には慰霊碑やレリーフが彼らの魂を鎮めるため数多く立ち並んでいます*1。
しかし、だからこそ、この人を拒む剱岳に多くの登山者は惹きつけられるのでしょう。
私も北アルプスといえば、白馬岳、穂高連峰と槍ヶ岳*2とともに、子供の頃に立山登山で見て以来、剱岳は憧れの山でした。
登頂は大学時代に剱沢から登った1回きりですが、よく登っていた後立山連峰から見える剱岳は、やはり他の山とは違う雰囲気を身にまとい、気が付けばしばらく見とれていたものです。
冷たい雨降りしきり、冬支度始まる樹林帯と岩壁の尾根を登り切った10月下旬の後立山連峰。凍える一夜を明かした次の朝、テントから出ると…… モルゲンロートに輝く剱岳は、吉田 博の「剱山の朝」のように…… (雪降らなくてよかった~、切実)
この剱岳を長野県から間近に見ようと思うと、2,500mを越える山稜を登らなければなりません。しかし!富山県からは街からでも簡単に見えます!
さらに!1,000mちょっとの里山レベルのある山に登ると、手に取るようにその勇ましい姿を思う存分に楽しめてしまうのです!
今回の記事は、剱岳をお手軽に!間近に!思う存分!見られる山をご紹介したいと思います!
(前置き長かった……今回も5,000字です <(_ _)> )
Contents
中山登山ガイド
剱岳を気軽に見られる山は、富山県の早月川(はやつきがわ)上流の馬場島(ばんばじま)付近にある【中山(なかやま)】です。
この地域ではお手軽に登れる山のようで、山行当日が平日にもかかわらず、多くの方が登られていました!
余談ですが、中山が位置する「上市町」はアニメ「おおかみこどもの雨と雪」のモデルの町だそうですね。作中では、剱沢からの美しい剱岳の姿が描かれていたと記憶しています。
『中山』(なかやま) 難易度:★★☆☆☆*3
【アクセス】登山口付近の「馬場島荘」まで滑川ICから40分(25㎞)、または魚津ICから45分(33㎞)
【山頂標高】1,255m(三等三角点)
【登山口標高】700m
【コース距離】6.5km (中山遊歩道を反時計回り)
【参考コース時間】計3時間40分(休憩・石の見学含む)
【展望良さ】★★★★★ (剱岳の眺望は絶品!!!)
【山域地質】山頂付近は中生代三畳紀の眼球状マイロナイト。山腹東側は古生代の飛騨変成岩類*4からなる(1/5万「立山」地質図幅)。北アルプスでは、最も古い地質帯の一つ(岩石・鉱物単位ではさらに古いものが日本には産する)。
登山道(中山遊歩道)概要とハイライト
中山を登るルートは一つ、「中山遊歩道」です。馬場島から中山頂上までを一周するルートで、反時計回りに周回するのが人気のようです。登りは、樹林帯の尾根を。下りはお花畑と雪解けの水流れる沢沿いになります。
登山道は終始よく整備されており、急登や鎖場もないので、ハイキング気分で登ることができます。
ただし、中山の上にある「クズバ山」は、樹林帯の急登や崩落箇所、また今回は斜面の随所に残雪が見られたので、もしこちらまで登山の際には十分お気を付けください(ハイキング気分はおすすめしません)。
また、野生動物にも気を付けてください。今回の山行の際も、姿は見えませんでしたが、カモシカまたは鹿の群れが登山道周辺にいました。もちろんツキノワグマの生息域ですので、熊鈴などの装備は怠りなく。
地図の真ん中右寄りに馬場島層荘があります。
- 馬場島荘で登山届提出して、反時計回りにすたーと!!
- 中山遊歩道登山口(まで5分)
- 五本杉の平(まで60分)
- 中山(まで30分)
- クズバ山登山道分岐点(まで10分)
- 東小糸谷(まで40分)
- 馬場島荘!ごーる!(まで10分)
- おつかれさまです!
※時間はおおよその目安となります(標準くらいです)。
中山のハイライトは、なんといっても頂上からの剱岳の眺め!
それと、北アルプスでは最古級の岩石(古生代~の飛騨帯)も見られます!
登山口まで(魚津市の海の駅から馬場島荘)
近くの入善町には無料のキャンプ場が二つ(別の記事で紹介します)ありましたが、深夜の到着でしたので魚津市「海の駅 蜃気楼」で車中泊です。
ここで失敗……二つ持参したカメラのうちメインの一台のSDカードがしっかりと入っておらず、記録されてませんでした ( ノД`) ですので、写真は魚眼レンズのものです…… 登山開始間際に気付いたのが救い……
左:立山連峰(右)の後ろに後立山連峰(左)!なるほど、たしかに富山から見ると立山の後ろにある!。右:富山湾と能登半島
登り(馬場島荘から中山頂上)
気を取り直して、登山開始!
地図の中央右寄りの馬場島荘からスタートです!
- 馬場島荘で登山届提出して、反時計回りにすたーと!!
- 中山遊歩道登山口(まで5分)
- 五本杉の平(まで60分)
- 中山(まで30分)ここまで!
- クズバ山登山道分岐点(まで10分)
- 東小糸谷(まで40分)
- 馬場島荘!ごーる!(まで10分)
- おつかれさまです!
海の駅から40分ほど早月川沿いに車で上がると、「馬場島荘」に到着です。山荘の前に10台ほどの駐車スペース、下に20台ほど、更にその下の登山口にも5,6台のスペースがあります。
山荘から上流に登りキャンプ場を過ぎると、剱岳への長い稜線「早月尾根」の取り付き点になります。今回は山荘から下った、「中山」の登山口に向かいます。
山荘の方から「今日はどちらに?」とお声掛けいただきました。
馬場島荘の入り口に設けられた登山届受付。里山レベルですが提出。
山荘はもう開いており、トイレも利用できました。(6/1土にキャンプ場が開き、本格的に利用できるようです。シャワー利用は週末や祝日のみのようです)
山荘から舗装道路を少し下ると、「中山」の登山口に。
すでに数台の車が右側に停まっており、準備をしているパーティもおられました。
登山道はよく整備されており、登りやすかったです!
ブナの木々の間から見える剱岳を楽しみながら歩いていると、時折大きな杉の木が!登山道の中ほどに眺めの良い開けたところも。休憩に良いかもしれません。
登山開始から1時間ほどで「五本杉の平」に。ここからは緩い登りになり山頂に至ります。富山市の街並みも見え隠れする樹林帯を歩いていると、やがて山頂へ!
大きな木の室があったり、くぐれる穴があったり。登山道わきにはまだ雪が!
頂上からの展望!
もう言うことなしの剱岳の眺め!!!
↑早月尾根をよーく見ると、↓早月小屋が!
左:大日岳。右:早月川の向こうに富山市と斜水市(いみずし)の臨海地区と富山湾
これだけ剱岳が見えて三等ですか……
下り(中山頂上から馬場島荘)
地図の上部中央の中山頂上から反時計回りに下山!
- 馬場島荘で登山届提出して、反時計回りにすたーと!!
- 中山遊歩道登山口(まで5分)
- 五本杉の平(まで60分)
- 中山(まで30分)ここから!
- クズバ山登山道分岐点(まで10分)
- 東小糸谷(まで40分)
- 馬場島荘!ごーる!(まで10分)
- おつかれさまです!
山頂から10分ほどでクズバ山分岐点になります。クズバ山の方が更に眺めが良いようですが、クズバ山を見ると残雪があり、さらに登山道が崩落してる部分があるそうなので、無理せず下山!(昔だったら突撃してたと思うけど、というか行かされてた、笑)
誰ですか!壊したのは!?(笑)
左の写真:中山方面、中の写真:馬場島方面、右の写真:クズバ山方面
途中、人工的なものが!たぶん、発電用の水路でしょう。これを過ぎると、雪解けの水流れる東小糸谷に。お花畑の中を沢沿いに下ります。途中3回沢を渡りますが、木橋がかかっていますので問題ないでしょう。
沢の向こうに見えるは大猫山かな。木橋は三つともしっかりしていました。
やがて立山川沿いの林道との合流地点に!
新鮮な石がいっぱーい! しばらく石を見ていました~♪
雪まだ残る林道を歩き……
早月尾根の取り付け地点に。
標高差2,200m以上!体力付いたら行きたいな~
剱岳の登山口の下にキャンプ場があり、馬場島荘もすぐです。
快適なキャンプ場!6/1からオープンしました!
馬場島荘にとうちゃーく!
写真は出発時のものです。下山時は右の建物にパトカー2台に、あと、たくさんの車が!中山登山口にもさらに多くの車が停まっていました。中山大人気!
そうそう、登山中に富山県警らしきヘリがずっと早月尾根上をホバリングしていました。訓練や登山道の視察ですかね?おつかれさまです!
中山と立山川のちょっと古い石ころたち
先日の「南木曽岳」は恐竜が絶滅する頃にマグマが固結した石からなる山でしたが、今回の「中山」は恐竜が発生する頃、またはそれ以前に形成した岩石となります。
また、北アルプスは新しい火山もいくつかあるものの、中央アルプスと同様に主に中生代*5の花崗岩類*6からなる山脈です。中生代の時、日本列島はまだ大陸縁辺の一部であったと考えられています。
北アルプス北部のこの地域では、北アルプスの中でも古い岩石が見られ、日本で見られる地質帯としても古いものの一つですが*7、それでも古くておおよそ3億年前です。地球46億年の歴史を考えると大した古さではないですね*8……
1/5万「立山」地質図幅によると、中山頂上の石は斑状のカリ長石が目立つ花崗岩のマイロナイト*9らしいですが、そんなにマイロナイトじゃない? というか、みえない……ごめんなさい(汗
ピンクがかった部分がカリ長石。黒い部分は黒雲母。温度計の直径は5.4㎝
真っ白な石!石灰岩が変成して方解石になってるのかな?これは飛騨変成帯のもので、この地域では一番古いようです(下山時、東小糸谷の大きな転石。スケールがない……古生代末期)。
↑船津型 ↓下之本型。白い船津型の方が新しい。北アルプスの花崗岩の中では、最も古いものの一つ。
飛騨変成岩類(立山川の転石。本地域は、古生代末期の二畳紀ー中生代前期三畳紀)
火成岩起源、石灰岩起源のものなど、様々な変成岩があります。
飛騨変成岩類はまだ統一した見解が出ていないようですが、4億5千万年~3億年前に中国北部(中朝地塊)と南部(揚子地塊)の大陸が衝突した時にできたものと考えられているようです。因みに、日本列島が大陸から分離して成立するのは1500万年前~と一桁新しいです。
※ちょっと詳しく
変成岩とは、既存の岩石が温度・圧力が変化することによって再結晶した(変成作用)岩石。地殻の岩石を大きく分類すると、火成岩(マグマが固結した岩石)、堆積岩(粒子が重力の影響で堆積した岩石)とこれらが変成作用を受けた変成岩の3つになります。
早月川の北の黒部川宇奈月の石の中には、38億年前(!)の鉱物(ジルコン)が入っているそうです。
あんまり書くと、誰かに見つかって怒られそうだからこれくらいに……(苦笑)
それにしても、登山道に石についての掲示がなかったのが残念。 日本の「地質」の扱いは、アイルランドやイギリスに比べるとひくい~
おわりに
今回の山行は天気もとっても良く、大満足でした!
気軽に登れる山なので、また来たいと思います!
全国的に知名度の低い山ですが、「中山」はおすすめの山ですね!
もちろん立山方面からの剱岳の眺望も捨てがたいですが、ハイキング気分(でも装備はしっかりと!)で間近で迫力の剱岳をご覧になりたいならば、「中山」は満足できると思います!
特に危ない箇所もないので、富山県にご旅行の際にお立ち寄りになるのも良いかもしれません!
【また来たい度&おすすめ度】
★★★★★×3億!(笑笑笑)
関連記事
cashel.hatenablog.com
参考文献・ウェブサイト
観光地:おおかみこどもの花の家HP;NPO法人おおかみこどもの花の家
山域の地質図:原山智・高橋浩・中野俊・苅谷愛彦・駒澤正夫(2000)立山地域の地質.地域地質研究報告(5万分の1図幅), 地質調査所, 218p. (リンク:産総研地質調査総合センター)
*1:最も遭難死者数が多いのは「谷川岳」。日本屈指の花崗岩の大岩壁「一ノ倉沢」における事故も多い。しかし、日本海側と太平洋側の気候が交錯する2,000mに満たない山は天気が変わりやすく、気軽にロープウェイで上がってきた軽登山者による事故も多い。中学の夏に訪れましたが、ヘッドランプに浮かび上がった慰霊碑の巨大さに驚きました……
*2:槍ヶ岳、やはり中学の夏に涸沢から縦走して登りましたが、ほんとかっこよかった!
*3:★1ピクニックレベル、★3丹沢、★5穂高連峰 ※筆者主観。★1でも油断禁物!
*4:日本の中でふる~い方の石
*5:2億5千万年前~6千5百万年前
*6:マグマが地下でゆっくり冷え固まった岩石
*7:以前は日本最古の基盤と考えられていた
*8:地球の歴史:先カンブリア時代(古生代よりも前、地球が生まれるまで!46億年前!)、古生代(5億4千万年~2億5千万年前)、中生代(2億5千万年前~6千5百万年前)、新生代(6千5百万年前~現在)
*9:地下深く高温領域で大きな力が長い間かかって、ぐにゅ~っと変形した石